サハリン

夜のユジノサハリンスク散歩

ナイトライフを満喫する観光客で賑わうウラジオストクやハバロフスクなどの大都市と比べて、夜のユジノサハリンスクは至って静かだ。それだけに夜の街歩きに関する情報は少なく、特に安全面や治安に関してはロシア極東全体に言えることだが、夜間の一人歩きは避けるよう、各総領事館のウェブサイトにある「安全の手引き」に記されている。ここで言う「夜間」の時間的な定義は明確ではないが、常識的な範囲内での行動を心がけた方がよさそうだ。


勝利広場

季節は8月上旬。今回は現地在住のアーニャにコンタクトを取り、彼女の都合がつく夜に2人で中心街を散策することになった。待ち合わせ場所は安全面を考慮して、中心街の東側に位置する勝利広場が良いとのこと。なるほど、そのあたりからしっかり考えておかねばならないのだな…。

午後9時少し前、サンタリゾートホテルの界隈を散策したのち、ここ勝利広場にやってきた。サハリンの時間は日本よりも2時間進んでいるので、この時間帯でも空には十分な明るさが残っている。勝利広場はかつての樺太神社の参道入口にあたり、広場の周りで談笑する若者たちや家族連れで賑わっている。確かにここは安全そうだ。

午後9時20分ごろ、アーニャの姿が見えた。

今晩は具体的にどこへ行くなどといった予定などは特に決めていないので、まずは勝利広場から駅まで続くKommunistchesky(コミュニスト)通りをぶらぶらと歩くことにする。稚内から北へ約200キロの場所に位置するとはいえ、真夏は夜でも半袖で十分に歩けるほどに心地よい。


復活大聖堂

静寂に包まれた夜のロシア正教会(復活大聖堂)。時刻はちょうど午後9時30分。空にはまだかろうじて明るさが残っている。


サハリン州郷土博物館

おなじみのサハリン州郷土博物館。館内は全て消灯されていて、ライトアップはされておらず、随分と薄暗い。今歩いているKommunistchesky通りも市内随一のメインストリートでありながら、外灯はポツポツと点在しているに過ぎず、一人で歩くにはちょっと心もとない。


サハリン州政府庁舎界隈

ライトアップされた州政府庁舎。昼間は無機質な印象だが、夜は壁面全体がライトアップされており、

「きれいだねぇ…」

と呟いたところ、

「そう?」

と、苦笑いされてしまった。

なお、現在は庁舎前広場が整備され、写真よりも明るい雰囲気になっている。

州政府庁舎近くのMira通りで見かけたクマのオブジェ。犬の散歩(どういう訳かパグ犬率が高い)をしている2人組はそれなりにいる。

州政府庁舎の正面向かいに建つチェーホフセンター(サハリン国際劇場センター)。時刻は午後10時近くだが、噴水の周りで夕涼みをする家族連れや若者で賑わっている。

こちらはソ連時代の建物をリノベーションした元来の州政府庁舎。ユジノサハリンスクにはふたつの州政府庁舎がコミュニスト通り沿いに近接して建っている。

ライトアップされた建物は中々美しく、昼間とはまるで印象が違い、ヨーロッパから遠く離れたこの極東の地でも、建物の電飾やライトアップには並々ならぬこだわりがあるようだ。また、賑々しい電飾看板は乱立しておらず、夜の街並みに落ち着きを与えている。


レーニン広場

州政府庁舎からまさに暗い夜道を歩くこと10分、駅前のレーニン広場までやってきた。時刻は午後10時を過ぎたが、日曜の夜であるにも関わらず、多くの市民がベンチに座って夕涼みをしながら、静かに会話を楽しんでいる。未就学児を連れている家族もかなりの割合だ。

現地日本総領事館のウェブサイトにある「安全の手引き」では、特に注意を要する場所のひとつがこの広場だが、家族連れや小さな子どもで賑わうような場所および時間帯は、基本的にどこも健全である。

ユジノサハリンスク駅はノグリキ行きの夜行列車が発車した後で、既に営業を終えている(なお、現在は午後10時半過ぎの急行列車が設定されている)が、待合室の明かりは灯ったまま。

駅舎正面には左右に時計が掲げられており、左側がサハリンの現在時刻(午後10時10分過ぎ)、右側がモスクワの現在時刻(午後3時10分過ぎ)を示している。これを見るだけでも、ロシアの広さを実感できるというものだ。


チェーホフセンター界隈

レーニン広場で今まで歩いてきた道のりを折り返し、先ほどのチェーホフセンターまで戻る。チェーホフの作品に登場する人物の銅像も、夜空の下に佇む姿は昼間と違って表情に影が感じられ、どことなくドラマチックな雰囲気だ。

時刻は午後10時40分を回ったが、小さな子どもを連れた家族連れや、静かに会話を楽しむ若者の姿は絶えない。背後に見える広場はどういう訳か、数多くの赤い電飾でライトアップされており、まさに「赤の広場」になっている。

A.P.チェーホフ書籍博物館「サハリン島」。


ユジノサハリンスクの夜は更けて…

時刻は午後11時に近い。

ここまで夜のユジノサハリンスクを歩いてきて、親子連れや若者、カップルたちの姿を遅い時間帯まで多く見かけた。真夏で気軽に外出できるという季節も関係していることだろう。現在は屋外や公共の場での飲酒が法律で禁止されており、安全面や治安に関しては、夜といえども、2人以上の複数で行動すれば、常識的な時間帯である限り、さほど心配する必要はないと思われる。

ただし、「安全の手引き」にも記されているように、ユジノサハリンスクにおける夜間の一人歩きは、可能な限り避けるべきであろう。ここまで見てきた地元の人たちは、そのほとんどが2人以上の複数で夜の街に繰り出していた。

上の写真左手にもチラッと写っているが、深夜に一人歩きをしているのは、大半が千鳥足になった地元男性の酔っ払いである。深夜の移動は短距離であっても正規のタクシーを利用するのが賢明だ。

その後、私はアーニャのアパートに誘われてお邪魔させてもらい、翌朝にハバロフスクへのフライトを控えているにも関わらず、紅茶を飲みながら夜更けまで、まったりと語らった。

気付けば時刻は午前2時30分。さすがにこんな時間にアパートから滞在先のホテルまで、数キロの夜道を歩いて戻ることはできないので、彼女にタクシーを呼んでもらうことに…(価格交渉の結果、運賃は150ルーブル)。

アパートの表玄関を出ると、いかにも人柄の良さそうな、インナーシャツを着た韓国系の中年ドライバーがにこやかに待っていた。

にしても、こんな真夜中であるにも関わらず、アパートに囲まれた広場で10人くらいの少年たち(10代半ばから後半くらい)が、遊具の周りで他愛のない会話や遊びをしていたのには驚かされた。危ない雰囲気は全くなく、夏休みとはいえ、日本ではあまり考えられないことだ。

まさか深夜2時半過ぎにサハリンでタクシーに乗る体験など、事前に想像もしていなかったのだが、メインストリートには車が全く通っておらず、ライトアップされた無人さながらの街並みが美しい。ただし、チェーホフセンター前の広場ではこんな時間であるにも関わらず、10代半ばくらいの少年が結構おり、通りがかりの車自体が珍しいせいか、皆一様にこちらを見ているのが印象的だった。