サハリン

オーロラ航空 新千歳サハリン搭乗記

2018年9月半ば、私は慌ただしく、ロシア極東で最初の目的地であるサハリンへ向かう旅の準備を進めていた。この旅の出発を決めたのは8月末だったのだが、奇しくも9月6日に最大震度7を記録する胆振東部地震が発生。札幌でも地震による影響は極めて大きく、停電に加えて、連日のように続く余震などで旅のプランニングや予約が全然できなかったからだ。もしも出発を決める前にこの地震が起こっていたら、おそらく旅そのものを取りやめていただろう。


当初はフェリーを利用する予定だったが…

しかし、旅の準備が慌ただしくなってしまったのは地震のせいだけではない。当初は札幌から稚内まで夜行バス「わっかない号」(宗谷バスと北都交通の共同運行)を使い、北海道サハリン航路が夏場だけ運航するフェリーに乗り継ぎ、サハリン南部の港町コルサコフから極東の旅をスタートする計画を立てていた。このルートは過去に2度利用したことがあり、既に予約も済ませていたのだが、札幌出発当日(!)の朝になって発券代理店から、

「明日の稚内発のフェリーは海上悪天候で欠航することが決まってしまったのですが、どうしますか…?」

と連絡を受けたのだ。

「ギョッ!そう来たか…」

数日前の天気予報では、宗谷地方は晴れの予報だったから、まぁ大丈夫だろうと思っていたのだが。発券代理店の話によれば、現時点では明日だけでなく、明後日はおろか、それ以降も運航できるかどうか、どうにもはっきりしないという。一日遅れならまだしも、前月には時化で1週間(!)も欠航したことがあったし、この先のことを考えると、サハリンに行く前から稚内で何日も足止めされてはその後の旅程に影響しかねず、困る。

夏から秋にかけて北海道とサハリンを結ぶフェリーには、シンガポールからチャーターした双胴船が使われている。だが、運航会社のウェブを見る限りでは大型クルーザーとさして変わらない感じの船で、波には弱いらしく、さらに運航計画が毎年コロコロと変わる。2018年は、運航を断念する報道が流れてから一転して再開が決まったものの、船の手配が大幅に遅れ、何とか就航にこぎつけたのは、8月を過ぎてからだった。


急遽、代案で飛行機を使うことに

だが不幸中の幸い、念のためにオーロラ航空のウェブサイトを欠航前日に眺めていたところ、偶然にも新千歳発ユジノサハリンスク行きの航空券が、数日前と比べて随分と安くなっていたのを確認していた。いま思えば、これは地震の影響だったのかもしれない。というのも、9月上旬までは片道の最低運賃が日本円換算で35,000円近くまで跳ね上がっており、これではさすがに割に合わなかったからだ(夜行バスとフェリーを乗り継いだほうが、時間はかかるが安い)。

仕方なく今回は先が読めないフェリーの利用を諦め、サハリンまで飛行機を使うことに決めた。乗船券は全額払い戻しとなったが、既に予約していた稚内行きの夜行バスに関しては当日キャンセルのため、電話で北海道アクセスネットワーク社(北都交通系列)に直接事情を説明した上で、半額を払い戻してもらうことになった。

後日、船会社のウェブサイトを見ると、欠航の翌々日のコルサコフ行きフェリーは通常通り運航されたそうで、ままならないものである。

旅の準備で寝不足の日々が続き、荷造りは出発当日の昼過ぎまで続いた。


バタバタした旅立ち

さて、当初の出発日より2日遅れた天気の良い昼下がり、私は新千歳空港へ向かうべく、新札幌駅のホームにいた。

ところがどういうわけか、これから乗車する快速列車の一本前を走る特急列車が、出発時刻を過ぎてもなかなか発車しない。信号は青になっているし、扉もきちんと閉まっているのだが。 このまま運転打ち切り、後続の列車が運休になってしまっては、飛行機の出発時刻に間に合わないのでは…という焦りが募る。そのうち駅員が様子を見にホームへやってきたりしたが、特急列車は結局5分くらい遅れて、何事もなかったかのように出発していった。

特急列車の出発が遅れた理由は一体何だったのだろう。旅の出だしから思わぬ冷や汗をかいたが、こういう万一の場合に備えて、行動には時間に余裕を持っておかねばならない。程なくしてやって来た後続の快速エアポートは、地震の影響が残っているせいなのか極めて空いており、15時頃、新千歳空港に着いた。

本来であれば空港ターミナルで飛行機を眺めつつ、出発までの時間をゆっくりと過ごしたかったのだが、チェックインの締め切り時刻まであと30分ちょっと。駅からの長い連絡通路を早足で国際線ターミナルへ直行する。

先客は既に手続きを終えていたせいか、オーロラ航空のカウンターには私以外に誰もいない。受付では予約確認書の提示を求められることもなく、パスポートの確認だけで無事にチェックインは終了。出国審査場へと向かう。それにしても旅立ちの前から何だかずっと落ち着かなかったが、まずはこれで一安心だ。


わずか90分弱のフライト

この飛行機は運航会社こそオーロラ航空なのだが、搭乗口のディスプレイには提携航空会社のアエロフロートのみが表示されている。アエロフロートのウェブサイトでも新千歳からユジノサハリンスクまでの航空券は予約できるが、最低運賃[Light]の設定はない。また、[Light]運賃は安い分、手荷物の預け入れは不可(ただし追加料金6000円を受付で支払うことで可能)で、機内持ち込み荷物は5kg以下までとなっているので要注意。

話は前後するが、ユジノサハリンスクの空港に着いて驚かされたのは、このフライトでスーツケースを預けていた乗客が、私以外に一人だけだったことだ。入国審査場で改めて周囲を見渡すと、ほとんどの人が機内に持ち込める小型のナップザックやスーツケースを持っていることに気付いた。短期間の滞在ならそれで十分かもしれないが(私の場合は滞在予定期間が約2週間半で、季節的なこともあり、リュックサックひとつでという訳には中々いかない)、にしても荷物の軽量化には各自工夫を凝らしているようである。

滑走路に夕日が差し込み始めた頃、搭乗口から随分と離れた駐機場までシャトルバスで移動する。ユジノサハリンスクへのフライトは国際線と言ってもジェット機ではなく、コミューター航空と同じ、50人乗りの小さなプロペラ機。頭をかがめるようにして機内に乗り込む。

16時45分、新千歳空港を定刻通り離陸。茜色に染まる夕張山地を眺めつつ、機内で配られる出入国カード(記入の仕方は機内誌に英文で載っている)に必要事項を記入する。これに意外と時間がかかり、記入を終えて窓の外に目を向けると、中頓別あたりであろうか。遠くにはオホーツク海と浜頓別のクッチャロ湖(道北最大の湖)が望めた。

ここまで約50分。真下には宗谷丘陵に立ち並ぶ風力発電所の風車が回っているのがよく見え、宗谷海峡はわずか10分ほどで過ぎ去る。新千歳を飛び立ってから1時間ほどで、眼下には早くもサハリンのクリリオン岬とアニワ湾が見えてきた。現地時間に合わせて、時計の針を2時間進める。

サハリン南部の港町・コルサコフと、その背後に位置するプリゴロドノエのガスプラント、アニワ湾に沿った幹線道路の夜景が広がると、いよいよサハリンに来たんだなという実感が湧いてくる。ほぼ定刻の20時10分(日本時間の18時10分)、山ぎわにまだうっすらとオレンジ色の空が残るユジノサハリンスクの空港に着陸した。


飛行機とフェリー、どちらを選ぶか?

ロシアの電子ビザ(E-Visa)でサハリンを訪れる場合、空路はユジノサハリンスク(ホムトヴォ)空港、海路はコルサコフ港を利用することになる。現時点では空路、海路のどちらも往復利用が原則で、往復に飛行機とフェリーを組み合わせることはできない。私は北海道からサハリンまで飛行機、フェリーのどちらも利用したことがあるが、フェリーの運航期間外は必然的に飛行機が旅の選択肢となろう。札幌から行く場合、以下に空路と海路、それぞれの特徴と長短を羅列してみると…

所要時間 (待ち時間などは含まない)

言うまでもなく、所要時間は飛行機の方が圧倒的に早い。

  • 空路:札幌駅から新千歳空港まで快速列車で約37分。新千歳からユジノサハリンスクまで所要1時間30分。空港から中心街まで路線バスで約30分。平日の場合、札幌を正午頃に出発したと仮定して、ユジノ中心街には現地時間の20時前後に着く。
  • 海路:札幌大通バスセンターから夜行バス(23時発)に乗車し、稚内港には午前5時30分頃に到着。稚内からコルサコフまでフェリーで約4時間30分。コルサコフ港の近くからバスに乗り換え、ユジノサハリンスクまで約1時間。ユジノ中心街には現地時間の18時前後に着く。

運賃

料金的には空路、海路ともにあまり差はない。ただし、飛行機の場合、繁忙期はもちろんのこと、スーツケースなどの手荷物を預けると運賃が跳ね上がるので、そのあたりを考慮に入れておく必要がある。

  • 空路:札幌から新千歳空港まで快速列車自由席で1150円。新千歳からユジノサハリンスクまでの運賃は季節にもよるが、最低運賃の[Light](手荷物預けは不可)で約20,000円弱。
  • 海路:札幌から稚内までバスで6200円。フェリーは2018年実績で大人片道15,000円(2020年以降は変更の可能性あり)。コルサコフからユジノサハリンスクまで路線バスで135ルーブル(200円くらい)。

欠航率

実際のところ、選択肢で一番考慮に入れておくべき事項であろう。

海路の場合、宗谷海峡の波の状況によってフェリーが欠航となる可能性が十分に考えられ(私自身も2度の欠航を経験している)、場合によっては1週間前後も欠航が続く可能性がある。繁忙期に稚内で足止めされると宿の確保がままならず、その逆だとビザの有効期限が切れる可能性がある(もっともこの場合、現地の日本総領事館が何らかの対応を行う可能性はある)。

滞在が長引けば、予期せぬ労力やお金を使うことにもなるので、そういう意味では飛行機の方が時間に確実かもしれない。