今回乗車するのはウラジオストク空港とウラジオストク駅を結ぶ近郊電車(エレクトリーチカ: 通称アエロエクスプレス)。2012年のAPEC開催に合わせたインフラ整備の一環で運行を開始した空港連絡列車で、アエロエクスプレス社による運行開始当初は1日10往復の利便性が高いダイヤが組まれていたのだが、当時はまだ電子査証(ビザ)制度がなく、利用は想定よりも伸びなかったようだ。ウラジオストクがロシア極東で随一の車社会であることも一因とされる。

2015年に経営がエクスプレス・プリモリヤ社(沿海州・ハバロフスク州・ユダヤ自治州・アムール州で主に近郊電車を運行する国鉄系企業)に移った後は運行本数が1日5往復に半減され、そのまま現在に至っている。

時刻表は2018年10月時点のもの。ダイヤ改正は時折行われるので乗車前に必ず確認を。

乗車前日に念のため、近郊電車の駅待合室に掲げられていた時刻表を確認すると、午前中のウラジオストク発空港行きの電車は6時23分発と9時02分発、それに11時51分発の3本。所要時間は全列車が54分に統一されている。今回は午後12時台発の飛行機に搭乗するので、午前9時台の電車で十分に間に合う。

なお、時刻表を見ての通り、空港発ウラジオストク行きの終電が17時台と極めて早いので(これは現在まで変わらない)、夕方以降に到着する場合はバス(マルシュルートカ)、またはタクシーを利用して市内入りするのが現実的である。あるいは空港内または周辺のホテルで一泊し、翌朝の電車で市内へ向かうのも一考だ。

なお、最新の空港連絡列車時刻表は、vvo.aero/passengers/transport/electric-train/(ロシア語)で確認できる。

空港行きのアエロエクスプレスが発着するウラジオストク駅はシベリア鉄道の夜行列車が発着する駅舎の正面左手にあり、空港連絡列車専用の独立した駅舎を持つ。入口にある空港さながらのセキュリティゲートを通過し、窓口で空港行きのチケットを買い求める。

運賃は2等座席が230ルーブル(訪問時の日本円換算で約370円)で、並行する空港連絡バスより100ルーブル安い。4列シートの1等座席(360ルーブル: 約570円)もあるので、空港からの行き帰りで使い分けてみると面白いかもしれない。

駅舎からエスカレータを降りて自動改札機にチケットを通すと、アエロエクスプレスが停車するホームに出る。

アエロエクスプレスは4両編成のED9M形(正面に形式番号が表記されている)。6人掛けの座席はさらっと埋まっているが、乗車率は5割くらいであろうか。スーツケースを抱えた旅行者だけでなく、近郊の駅で降りると思われる軽装の人も少なくない。

午前9時02分にウラジオストク駅を出発。この電車は空港アクセスだけでなく、近郊輸送の役割も担っており、ウラジオストク市街の各駅に4駅連続で停車した後、終点まで快速運転となる。

モルゴロドク駅付近の側線で見かけた事業用列車。古い寝台車を2両連結している。

何度もカーブを繰り返しながら中心街を走ること約10分、車窓左手に海が見え始めた。正確にはアムール湾(アムールスキー・ザリフ)と呼ばれており、沿岸には遊泳に適した海水浴場が点在する。

チャイカ駅を過ぎてしばらくすると、アムール湾を横断する長大な道路橋が見えてきた。後で調べてみると、その名もアムール湾横断橋(Мост через Амурский залив)といい、全長は4280メートル。やはり2012年のAPEC開催に合わせて整備されたという。ウラジオストクからウスリースクやハバロフスク方面へ向かう連邦道路A370の新ルートにもなっている。

アムール湾に面する6駅目のウゴリナヤ(Угольная)では地元客に加えて、韓国人観光客のグループが大挙して下車していったが、この付近に観光地らしき場所は特に見当たらない。シベリア鉄道の試乗であろうか。

最後の停車駅、アルチョーム(Артём)でも結構な下車客があり、乗客は出発時の半分ほどになった。なるほど、近年はウラジオストクを訪れる観光客が随分増えてきたとはいえ、この乗車率では1日5往復もやむを得ない感じがする。

アルチョームを過ぎると程なくしてシベリア鉄道の本線と分かれ、単線の空港連絡線に入った。車窓には雑木林と素朴なダーチャ(家庭菜園付きの別荘)が広がる。

午前9時56分、終点のアエロポルト・クネヴィチ(Аэропорт Кневичи)に到着した。駅名の「クネヴィチ」とはウラジオストク空港元来の名称である。雰囲気的にはJR九州の宮崎空港駅をちょっと大きくした感じに似ているかもしれない。なお、車内では全区間で無料Wi-Fiが安定して使えた。

駅舎は空港ターミナルに直結しており、改札口で再度手荷物検査を受けるため、多少の待ち時間を要する。

チェックインまで時間があったので、空港ターミナル地下のスタローバヤ(ビュッフェ形式のカフェテリア)で軽く食事を取っておく。時間つぶしにはちょうどよい。

2012年のAPEC開催に合わせて改築されたウラジオストク空港。近年はロシアの電子査証(ビザ)制度が適用される国際空港として目覚ましい成長を見せており、2020年春には日本航空(JAL)や全日空(ANA)が成田から新規就航したほか、関西や新千歳からの直行便も設定されている。

しかしご存知の通り、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行によってウラジオストク発着の定期国際路線は全路線が運休。現在、ウラジオストクを含むロシアへの外国人観光客の渡航は事実上不可能となっている。

渡航が再び可能になった折には状況が大きく変化している可能性があるので、最新情報に留意してほしい。


スタローバヤNo.1

さて、アエロエクスプレスが発着するウラジオストク駅(新駅舎)の正面左手には「スタローバヤ(Столовая No.1)」がある。サンクトペテルブルクを中心にチェーン展開しているというビュッフェ形式のカフェテリアで、列車の乗車前はもちろんのこと、駅前で安く手軽にロシアならではの食事が楽しめる便利な場所だ。それだけに午前8時の開店前にはちょっとした行列ができる。

このスタローバヤで興味深いのは、ウラジオストク空港行きのアエロエクスプレスの出発時刻を示す電光掲示板が店内に設置されていること。空港の到着時刻、出発までの残り時間も併せて表示されており、中々粋なサービスである。

ここでカーシャ(ロシア風の甘いおかゆ)とサラダの簡単な朝食を取った。