極東・沿海地方

夜のコムソモリスク・ナ・アムーレドライブ

コムソモリスク・ナ・アムーレの夜は一体どのような雰囲気なのだろう。ロシアの主要都市全体に言えることだと思うが、同じ街並みとて、街明かりが灯る夜の印象は昼と全く異なることが少なくない。ロシアの公共施設は往々にして、夜になると美しくライトアップされるが、それは光の芸術といっても過言ではなく、昼間とは全く異なる表情を見せることが多い。それ故、昼と夜の両方を姿を見比べるのも、ひとつの旅の楽しみと言えよう。

今回は滞在中、幸運にも現地在住のアレックスが夜の街へドライブに行こうと誘ってくれた。すっかり夜の帳が降りた9月下旬の午後8時、彼の車に乗り込み、まずは中心街のドラマシアターへ向かう。


コムソモリスク・ナ・アムーレ ドラマシアター

「おぉ… これは…」

昼間に見た社会主義建築のドラマシアターは、地面から屋上まで一直線の白い光で彩られ、古代の兵士のレリーフが銀色に浮かび上がる。モダンなホワイエは暖色系の明かりで満たされ、見ているだけで中へと惹き込まれそうな雰囲気だ。

ロシア極東ではライトアップされた社会主義建築を数多く見てきたが、コムソモリスクのドラマシアターはその中でも特に印象的だった。

館内の写真はkomcity.ruまたはdvkeramik.ruのスライドショーで見ることができる。

色とりどりの光を放つ噴水の周りでは身体に染み渡る寒風が吹き抜ける中でも、若者や家族連れが散歩に出歩いている。


夜の団地とアパートの壁画

街の南西、ユーノスチ通りに建つ9階建てアパート(スヴェトラーナ通りとの交差点近く)に描かれた1980年モスクワオリンピックの記念壁画。大会のマスコットキャラクターである子グマのミーシャが、3つの金メダルを手に取った可愛らしい姿が描かれている。

また、ユーノスチ通りとガガーリナ通りの交差点に建つふたつの古いアパートには、それぞれ巡洋艦と飛行機の真新しい壁画が描かれ、ライトアップされている。造船と航空機製造はコムソモリスクを代表する基幹産業。近年は団地の雰囲気を明るくしようということで、その街を象徴するモチーフを描いた壁画が極東の地方都市で流行しているようだ。


レチノイ・ヴァグザール

アムール川に面する河川交通の拠点であるレチノイ・ヴァグザール 。ターミナル内は営業を終えていて真っ暗だが、建物の右端では隠れ家的な数軒のカフェバーが営業しており、入口で数人が静かに会話をしている。賑やかな電飾とご機嫌な酔客が目立つ居酒屋の風景とは正反対だ。

広場では鹿の群れや木々をかたどった、ささやかなイルミネーションが点灯していおり、その前を古ぼけた、がら空きのトラムがゆっくりとやってきた。何十年も変わっていないであろうトラムの車内をぼんやりと、どこか寂しげに照らし出す白熱灯は、私の知らないソ連時代のノスタルジーを想起させる。おそらくもう二度と見られないであろうこの光景をしっかりと目に焼き付けた。

ターミナルに面する3棟のアパートはコムソモリスクを代表する団地群。外縁は青白い明かりを放ってライトアップされている。上層階から眺めるアムール川や市街地の眺めはきっと良いことだろう。

レチノイ・ヴァグザールに近接するソ連時代設立のカルチャーセンター「青年の家」(Дом Молодёжи)。ここにも大きなモザイク画が描かれている。Nikolai Dolbilkinの作品のひとつだろうか。


中心街のメインストリート

街の中心に建つ文化の家。青色をベースにライトアップされたその姿は、どこか中央アジア的な趣きだ。

こちらはレニナ通りに建つスターリン洋式の尖塔。こうして夜に見ると、コムソモリスク・ナ・アムーレが「ミニ・サンクトペテルブルク」と称されるのも頷ける。


コムソモリスク新市街

中心街を通り過ぎ、アレックスがドライブに出かける前、やや自慢げに話していた「街の夜景が見える丘」に向かって夜道を走る。

「コムソモリスクに夜景が見えるような丘などあるのかな?」

と半信半疑に思いつつ、中心街を抜けて街の東側に入った。

コムソモリスクの市街地はシリンカ川を挟んで西側が中心街、東側が工業地帯に隣接した職住近接の団地(ここでは説明のため、新市街と称する)に分かれている。

今走っているのは、新市街を南北に貫く広々としたメインストリートのポベディ通り。道幅はざっと100メートル近くあり、その両側に長大なソ連時代のアパートが建ち並ぶ。新市街のスケールの大きさを誇示しているかのようで、単に幅が広い道路とは雰囲気が違う。

補足説明のために、郷土博物館に展示されている新市街の空撮写真を見ると、そのスケールの大きさが改めてよくわかる。街の中央を貫くのがポベディ通りだ。

新市街はハバロフスク州最大の企業「コムソモリスク・ナ・アムーレ航空機工場КнААЗ (KnAAZ)」のお膝元。スホーイ(Su)のブランドで名を馳せる戦闘機や曲芸機、それに旅客機(スーパージェット)を製造するロシア随一の航空機メーカーで、滑走路を併設した巨大な工場が街の東側に広がる。

それに加えて、新市街の北端には国営石油会社「ロスネフチ」の大規模な石油精製工場が広がる。この工場を迂回するように通る道路の長さは数キロに及び、車内から煌々と明かりが灯る巨大かつ近代化されたプラント、高い煙突からフレアタックスの炎がゆらゆらと燃えているのが見える。

操業開始は1942年とのことだが、ソ連時代の面影はほとんど感じられない。現在はサハリン北部のオハ沖で採掘された原油がパイプラインを通してここに送られて精製されたのち、貨物列車などで極東各地やシベリアに運ばれていくそうだ。


夜景の見える丘

ロスネフチの背後から伸びるオフロードへ進み、真っ暗な林道をガタガタと揺られながら登っていく。アレックスが「3!2!1!」とカウントダウンを始め、「Go!」と声を張り上げると、前方に街明かりが一気に広がった。

名の無き小高い山の平坦な頂上には誰もおらず、ロスネフチの石油精製工場と、その背後に広がるコムソモリスクの素晴らしい夜景を我々が独占である。彼は今まで何度かここに来たことがあるそうだが、地元の人には結構人気がある夜景スポットらしく、誰もいなかったのは今回が初めてだという。

街と工場の夜景もさることながら、快晴の夜空に煌々と光輝く満月、そして月明かりに浮かび上がるアムール川と湖沼群の眺めが美しい。対岸にはナナイ族の村明かりが見え、水辺の雄大なる自然に優しく抱かれた情景は感動的でさえある。

しばし夜景に見惚れたのち、今まで来た道を30分ほどかけて戻り、閉店間近の食料品店に立ち寄って、午後10時少し前にこの日のドライブを終えた。